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研究内容

研究分野:X線分光学理論・実験、データ駆動科学、物性理論

研究テーマ(1):X線分光学理論・実験による強相関電子物性の解明

研究対象である強相関電子系の興味ある物性は3つの自由度、電荷・軌道(多極子)・スピンをもち、これらが複雑に絡み合うことで起こります。例えば重い電子的振る舞いや量子臨界現象、多極子秩序やそれらが引き起こす交差相関現象などがあります。これらの現象をミクロスコピックな測定であるX線分光学の理論・実験を用いて研究しています。

1)価数(電荷)自由度が引き起こす重い電子的振る舞いや価数揺らぎ量子臨界現象
2)多極子秩序やそれに伴う伝導・磁性の応答の変化

図1. 磁場に鈍感な重い電子を持つSm化合物
図1. 磁場に鈍感な重い電子を持つSm化合物
[1] J. Phys. Soc. Jpn., 76 (2007) 053706.
図2. 異方的空間分布を持つ磁気モーメントが引き起こす光学活性
図2. 異方的空間分布を持つ磁気モーメントが引き起こす光学活性
[2] Physical Review Letters 131 (21), 216501.

研究テーマ(2):分光実験(理論)と物性実験(理論)におけるデータ駆動科学による統合

物性研究において、さまざまな測定を行いそれらの結果をすべて考慮に入れて、対象とする現象を総合的に理解してきた。総合的理解・統合的理解をするためには、 いわゆる“天才”が必要であった。我々はこの“天才”に代わるシステムをベイズ統合によって構築することを試みている。このシステムが構築されることで、“天才”ではなくても、さまざまな異種測定データを統合し、物性の理解を進化させることが期待されている。これまでその基礎段階として下記の2つの例において統合が可能であることを示してきた。

1)X線光電子分光とX線吸収分光を用いたハミルトニアンの統合
2)磁化率と比熱の温度変化を用いた結晶場ハミルトニアンの統合

図3. X線光電子分光とX線吸収分光のハミルトニアンの統合
図3. X線光電子分光とX線吸収分光のハミルトニアンの統合
[3] J. Phys. Soc. Jpn., 90(2021), 034703.
図4. 磁化率と比熱によるハミルトニアンの統合
図4. 磁化率と比熱によるハミルトニアンの統合
[4] J. Phys. Soc. Jpn., 93(2024), 034003.

研究テーマ(3)データ駆動科学によるデータ解析高度化

3−1)ベイズ階層モデリング

物性測定においては分光スペクトルや回折パターンなどの時間依存性や温度依存性など外場依存性を測定することで、相の時間変化や温度変化の機構を推定することが多い。この外場依存の機構をベイズ階層モデリングを用いて、機構の解明や機構のモデルが複数の候補があるときのモデル選択が可能となる。

図5. ベイズ階層モデリングの概念
図5. ベイズ階層モデリングの概念
図6. 得られたパラメータの事後確率分布
図6. 得られたパラメータの事後確率分布
[5] Scientific Reports 13(2023), 14349.

3−2)非周期構造をもつ2相共存する系の特徴量や秩序変数の抽出によるドメインの振る舞いの理解

近年、測定の技術の大幅な向上に伴って、顕微画像データが高精細に取得することが可能となってきた。しかしながら画像データは人間が定量的に理解することが困難な状況である。これを突破するために、格段の進歩を遂げているデータ駆動科学を用いて画像データの特徴量を推定し、画像変化の定量化を試みている。例として強磁性体の磁区パターンの違いの尺度を脳の視覚認知を説明する画像統計量Portilla-Simoncelli Statistics(PSS)を用いて定量化することに成功した。

図7. 画像統計量Portilla-Simoncelli Statistics(PSS)を用いたパターンの違いの定量化
図7. 画像統計量Portilla-Simoncelli Statistics(PSS)を用いたパターンの違いの定量化
[6] J. Phys. Soc. Jpn., 90(2021), 044705.